ギフテッドの子どもが学校生活で抱える違和感はとても見えにくく、周囲も、ともすれば本人も気付かないままに、心に大きな負担をかけていることがあります。ギフテッドの生きづらさについては、最近ようやく社会でも取り上げられる機会が増え、知られるようになってきました。しかし、それが本当の意味で価値を持つのは「あの子のことかもしれない」と、身近な誰かに結びついた瞬間からではないでしょうか。
関係各位のご厚意により全文掲載が実現した本記事が、たくさんの方の目にとまり、一人でも多くの子どものサポートにつながることを願ってやみません。
掲載をご快諾くださいました上越教育大 角谷詩織先生と手記を書かれたお母さま、また掲載にあたりお力添えいただきました毎日新聞社 坂根真理記者に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
2020年10月 ギフテッド応援隊
以下、2020年9月22日付毎日新聞記事「「ギフテッド児」と重なる「17歳で逝った息子」 周囲の理解あれば…母と専門家対談」転載
◇母親とオンライン対談 角谷詩織・上越教育大准教授
2016年に発達障害の息子(17)が自死したことについて、県内在住の50代母親が手記「『17歳で逝った息子』とその母が伝えたいこと」を「長野の子ども白書」に著した。5月27日付毎日新聞で報じたところ、「『ギフテッド』の特性と重なる点が多い」と角谷(すみや)詩織・上越教育大准教授(発達心理学)から反響が寄せられた。充実した高校生活を送っているように見えた息子が、なぜ自ら命を絶ったのか――。自問自答を繰り返してきた母親はその答えのヒントを求めて、角谷さんとオンラインで対談した。見つけた答えとは。【聞き手・坂根真理】
※母親の手記全文「『17歳で逝った息子』とその母が伝えたいこと」はこちら(リンク)
ぜひこちらの手記を読まれてから、下記対談記事をお読みください(ギフテッド応援隊)
――角谷さんは記事を読んだ後、「ギフティッド その誤診と重複診断」(北大路書房)という翻訳書を母親に贈りました。
角谷 記事の冒頭から、心に突き刺さる言葉がいくつもありました。成績優秀なのに、普通なら分かることが分からないと不思議がられるとか。ギフテッド児の特性に当てはまることが多いなと。その特性を周囲が「知らない」ことで生じる悲劇を無くしたい思いで19年に翻訳本を2冊出したのですが、「間に合わなかった」と、無念の涙が出ました。ただ、お母さんに一筋の光が差せばと思い、本をお贈りしました。
母親 ギフテッドだったかどうか、もう分かりませんが、当てはまるところがあり過ぎて、ずっと線を引きながら読みました。息子に会えた気がしました。(自死の)理由を探していましたが、一歩前に進めました。
◇習得力や集中力高く
――ギフテッド児はどんな子ですか。
角谷 習得力や言語力が高い、不公平や不正に敏感、集中力や共感性が高い、エネルギーにあふれている――などの特性があります。これらは一見有利だと思われますが、公教育の場で苦労する部分が目立つのが実情です。教育ニーズが満たされず、生きづらさや困難を抱えているケースもあります。
母親 息子は1歳4カ月でペラペラしゃべりました。幼児期はエネルギーにあふれ元気いっぱい。キョロキョロして、興味がある所へすぐ行くのでよく迷子になりました。いつも体のどこかが動き、おしゃべりも止まらない。悲しい絵本を読むと大泣きし、うれしい時はジャンプしながら聞いていました。
小4の時に発達障害と診断され「そのせいだったんだ」と納得しましたが、頭の回転が速く、ユーモアに富み人気者で、コミュニケーションが豊かだったので「発達障害なのかな?」と違和感はありました。アスペルガー症候群、ADHD(注意欠陥多動性障害)だと思っていました。
角谷 すごくギフテッドの特性に当てはまると感じるのですが、知能検査はなさらなかったのですか。
母親 小4の時の検査で「知能は普通よりいい」と言われましたが、数値はあまり覚えていません。今思えば、記憶力は並外れていました。円周率も50桁ぐらい覚えていました。強烈な集中力で、何か夢中になっていると何を聞いても聞こえていないみたいで「耳が悪いのか」と耳鼻科に行ったこともありました。騒々しい学童保育でも、ランドセルを背負ったまま正座して微動だにせず本を読
んでいるので、先生に「二宮金次郎だ」と言われていました。
慈悲深いのが一番印象的で、弱い立場の人に心を痛め、七夕の願い事も小学生の頃から「戦争やいじめや犯罪がなくなるように」「食べ物に困る人がいなくなるように」でした。転入生が来ると、その子のことを心配し過ぎ周りをずっとウロウロしたり、転出する子にはしがみついて泣き崩れ、何時間も泣き続けたりしていました。
角谷 ギフテッドの中には、喜怒哀楽の全てが激しいという、感情の「過興奮性」のある子がいます。本を読んでもらってジャンプをするというのも、楽しみや喜びといった感情をこの上なく感じているからでしょう。ただ、場面や状況相応の感情表現の程度からかけ離れているところが親としては心配になるところですよね。
共感性の高さや七夕の願い事もですし、人道支援や環境保全、世界平和を心底願うのも特性の一つです。
エネルギーにあふれていることを「じっとできない」と評価されると、ADHDと誤解されやすいです。ADHDとギフテッド児の大きな違いが翻訳書にリストアップされていますが、その一つに、ADHDは動き回ることを自分でコントロールできないと感じているのに対し、ギフテッド児は理由を話せるという点があります。
◇周囲の理解得にくく
――ギフテッド児は学校生活ではどのような問題に直面するのでしょうか。
角谷 大きく分けて二つあると思います。一つは、標準的な教育環境では知的ニーズが満たされないこと。「授業が退屈でつらい」という子どもの訴えに代表されます。もう一つは、ギフテッド児に共通して見られる特性が、周囲に理解されにくいことです。
知的能力の高さは学業に有利だと思われるかもしれませんが、これは必ずしもそうではありません。「勉強しなくても100点を取れてうれしい」とか、そういう域を超えて、日々の授業で新たなことを理解し、挑戦する楽しさを体験できない弊害の方が大きい。
想像してみてください。知っている話ばかりの講演会に行ったら、そのうち「夕飯を何にしよう」などと関係のないことを考え始めますよね。あるいは、「無駄だ」と諦めて家に帰るかも。
大人ですらそうなのに、ギフテッド児は毎日朝8時から午後3時までずっとその状態。かなりつらいことです。先生の話を聞いていない、ぼーっとしているように見える、席を立つなどは、障害と捉えられることが多いですが、ある意味すごく自然な反応だということもあるわけです。
2点目として、過興奮性などの特性も理解されにくい。例えば知的過興奮性の表れとして、ギフテッド児は先生の話を聞いて「あれ?」と思ったことは尋ねずにはいられなかったりします。また、本質を突いていて先生の理解より深いことが珍しくありません。
すると、「先生の話を最後まで聞けない子ども」と否定的に見られてしまう。そういった対応を小1のうちから受け続けると、「知りたいという欲求を教室で満たすのは無理」と早々に感じ取るわけです。そういう学校や先生ばかりでもないですが、ギフテッド児の強烈な探究心を満たすことのできる教育環境は、まだまだ足りないのが現状です。
母親 すごくよく分かります。今まで「悪い部分」と思っていたことが、そういう理由からだったとは。
ずっと叱責されてきたので、自己肯定感は傷付いてきたと思います。なんで先生に怒られているのか分からないから、小4ぐらいからだんだん話さなくなり、笑顔がなくなって不登校になりました。自分を責め続けていましたね。あと、正義感が強いあまり、友達のために理不尽な先生に抗議したり反抗したりして、それで目をつけられたりしたことも。
中学生の時、「勉強しても意味がないからやめる」と急に投げ出しました。連絡帳いっぱいに「無駄無駄無駄……」と書いていたこともあって。教科書も出さずに毎日机で寝ていたそうですが、テストはできるから不思議がられました。興味関心が広くて深く、多趣味なので、習い事やスポーツを次々とやり、すぐに上達しましたが、誤解されて怒られることも多く、ほとんどやめてしまいました。
角谷 周囲の大人はギフテッドの特性を的確に理解した上で、その子の話に耳を傾けることがとても重要だと思っています。実際、ギフテッド児は一筋縄ではいかなくて、難しいところがあります。正義感が強過ぎて黙っていられないなどもそうです。ですが、周囲の大人が彼らの特性を理解すると、それまでより適切に対応できるようになります。
子どもの上位3~10%がギフテッド児だと言われています。10%となると、30人クラスに3人、3%だとしてもクラスに1人はいる計算になります。想像以上にギフテッド児は多く身近にいます。
◇いろいろな謎が解決
――自死したことをどう思いますか。
角谷 手記を読んだ範囲ですが、「実存的うつ」という言葉が脳裏に浮かびました。人道支援や世界平和を深く願うけど、一人の力では到底実現できないことにも気づけてしまう。無力さを心の底から感じるわけです。理想と現実のギャップに絶望感を覚えたのかもしれません。
自分の声を聞いてくれる人がいること、独りぼっちではないこと、たとえ小さくても世の中に何らかの影響を与えられることを本人に気付かせることが、生きていく活力の源になる――と、翻訳書にも書かれています。
母親 手記を書いて、そのことが新聞に載っていなければ、こうして角谷さんとは絶対にお会いできなかった。子どもが会わせてくれたような気がします。自分のいろんな行動の理由を角谷さんを通して(多くの人に)教えたかったのかもしれません。自分の子どもだけど「頭の中を見てみたい」といつも思うほどでした。謎がいろいろと解決しました。本当にありがとうございました。
◇
取材後、母親が息子の小4当時の知能検査結果を確認したところ知能指数(IQ)が124だったことが判明した。
角谷さんは「『マイルドリー・ギフテッド』(目安はIQ115~129)のカテゴリーに入ると言えます。障害の有無については、残念ながら何とも言えません。この子が生きている間に、社会がギフテッドの可能性について理解し、ギフテッドとして生きる居場所が十分にあったら、何かが違ったかもしれません」と涙ながらに語った。
■ことば
◇ギフテッド児
並外れた才能を秘めている子ども。天賦の「贈り物=ギフト」を与えられたことを意味する。
知的レベルが高い(目安は上位3~10%)場合が多いが、その個人差は大きい。
全米小児ギフテッド協会は、知的能力全般▽特定の学問領域▽創造的思考▽生産的思考▽リーダーシップ▽ビジュアルアーツやパフォーミングアーツ――のうち、一つか複数でずば抜けたレベルの実績を上げたり、そのような力が潜在的にあったりする人と定義する。中にはADHD(注意欠陥多動性障害)などの発達障害があるケース「2E(ツーイー)」もある。
ギフテッドそのものは発達障害のカテゴリーには属さない。
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★ギフテッド児に共通する特性★
・発達初期から並外れた注意力がある
・習得が早い。考えを素早く関連付けてまとめられる
・多量の情報保持。記憶力が非常に良い
・年齢の割に並外れた語彙(ごい)と複雑な文章構造を持つ
・言葉のニュアンス、比喩、抽象的な考えに対する高度な理解力がある
・数字やパズルを含む問題を好んで解く
・就学前に独学で読み書きスキルを身につける
・並外れた感情の深さ、感情と反応の激しさ、過敏さ
・抽象的、複雑、論理的で洞察力のある思考
・幼少期から理想主義と正義感が見られる
・社会的問題や政治的問題、不公平さや不公正さへ関心を示す
・長時間の注意持続や強烈な集中力
・自身の考えることで頭がいっぱい
・自身や他者のできない状態や遅い状態にいたたまれなくなる
・練習なしに早く習得できる
・鋭い質問。教えられた以上のことをする
・興味関心の幅が広い
・高度な好奇心。途絶えることのない質問
・実験や違う方法で試すことへの興味関心
・普通は考えないような方法や斬新な方法で考えや物事をまとめる傾向
・鋭く、並外れたユーモアのセンスがある
・複雑なゲームや枠組みなどを用いて物事や人を仕切りたがる
・想像上の友達がいる
※「わが子がギフティッドかもしれないと思ったら」(春秋社)から抜粋
<合わせて読みたい>『長野の子ども白書』関連記事へのリンク集
『「17歳で逝った息子」とその母が伝えたいこと』掲載手記全文(長野の子ども白書2020)
「ギフティッド?」17歳で逝った息子とその母が伝えたいこと(長野の子ども白書2021①)
「身近にいるギフティッド児の的確な理解~ギフティッド児神話から探る~」上越教育大学大学院准教授⻆谷詩織(長野の子ども白書2021②)
【ギフテッド関連情報】海外のギフテッド関連文献の和訳記事、を読む方はこちら(リンクで和訳記事一覧ページに移動します)
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