聡明な(ギフテッドの)脳における不安についての精神科学

こんにちは。最近は、すっかり秋らしくなってきましたね。

本日は、SENGのHPにあるLibrary の記事から、Nicole Tetreault博士の記事をご紹介します。

 

彼女は、神経科学者、作者、瞑想の教師であり、神経多様性、神経発達、創造性、メンタルヘルス、ウェルネスに関する国際的なスピーカーです。Tetreault博士は、カリフォルニア工科大学 (Caltech)で学び、神経発達と神経変性疾患を専門とする生物学の博士号を取得しました。

Awesome Neuroscienceの創設者として、個人が最高の人生を送れるよう、最も有益と思われる神経科学とポジティブ心理学を人々に伝えることに取り組んでいます。

 

Neuroscience of Anxiety in the Bright Brain

聡明な脳における不安についての精神科学

 

◇原文は以下をご参照ください。https://www.sengifted.org/post/neuroscience-of-anxiety-in-the-bright-brain


 

ウィリアム・シェイクスピアは、「今、目の前にある恐怖でさえ想像が生み出す恐怖よりは恐ろしくない。」と書いています。ここで私たちが忘れてはならないのは、ぼんやりと考えるとき、想像にはポジティブなもの、ネガティブなもの、そしてニュートラルなものがあるということです。それは、私たちが自分の感情や身体感覚に反応している状態であり、私たちは、恐怖や不安にくっついたり離れたりしている状態なのです。最終的には、自分自身に語るストーリーが、私たちの心の状態と幸福感を決定づけるのです。

 

心理学者のカジミエシュ・ドンブロウスキは、聡明な人は想像力がより豊かで、5つの領域(知的、感情的、感覚的、精神運動的、想像的)に過興奮性を示し、物事をより強烈に感じると提唱しています。

 

聡明な人は、感情的な脳のネットワークが強化されていることが多く、感覚的な処理能力が高いのです。 それにより、現実と想像の両方のストレス要因に対する生理的反応が高まっているため、不安を打ち消すことが難しく、破壊的な状態に陥りやすくなることもあります。知能の高い人は、(アメリカの)全国平均と比較して不安の割合が25%も高いと報告されています。

 

聡明な人は、その生まれ持った、脳の回路、ホルモンのストレス反応、ストレスに対する身体的反応により、負のサイクルにはまってしまう可能性がより高いと言えます。交感神経系が活性化されると、コルチゾール値が上昇し、情動ネットワークが循環する脳回路が再配線され、前頭前皮質(意思決定を司る領域)が一時的にオフラインになり、効果的な意思決定が妨げられます。

 

実際には、身体はFight, flight, freeze (戦う、逃げる、かたまる) という3つの状態に移行し、炎症反応が亢進してしまいます。そして、低レベルのストレス反応が継続することで、彼らにとって、世界は“常にチクチクピリピリとした”痛みを伴うものとなってしまうのです。

 


処理速度が遅いとラベル付けされた子供を考えてみましょう。これは、様々な学び方の違い、非同期的な脳の発達、感覚統合、代謝処理、注意力、実行機能、または感情の発達に関連している可能性があります。

 

親や教師は、それにより子どもが作業をするために長く時間が必要であることを理解し、テストでより多くの時間をかけることを許可するなどして環境調整をすることがあります。しかし、子どもの視点から見ると、休み時間や昼食などの他の学校活動、つまり仲間とのつながりの時間に参加することができなくなるため、せっかく調整してもらった時間が逆に不安を生む場合もあります。

そして、その結果、その聡明な子どもは、社会的な孤立を感じる可能性さえあります。IQが高い人ほど、“ギフト”にも“呪い”にもなりうる感情処理を担当する脳領域が強化されており、幸福と悲しみをより強烈に感じるのです。

情動知能と情報処理を司るとされる脳領域である、前帯状皮質と眼窩前頭前野皮質は、より大きな不安を持つ個人においては、その機能的なつながりが変化しています。これらの研究は、神経解剖学的に不安を感じやすい人が存在するという考えを裏付けるものであると言えます。

 

一般的に、聡明な子ども達には、明らかな症状がみられず、不安として自分の経験を言葉で表現できないために、彼らが不安に苦しんでいると診断される可能性は低くなってしまいます。その結果、治療を受けられなかったり、誤診、誤認により、生理的、心理的、神経学的に負の影響を受けたりすることがあります。

ストレスホルモンの増加と過剰に活性化されたストレスネットワークは、炎症反応を亢進させてしまい、最終的には心と体のつながり全体がこわされてしまうのです。

聡明な子どもたちは、胃腸(GI)症状、「ADHD」行動、感覚過敏(触覚、味覚、聴覚、嗅覚、視覚)の亢進、慢性的な頭痛、および社会的引きこもりなど様々な症状を呈することがあります。

不安を持つ子どもは、腹痛、頭痛、身体的な痛みなどの身体的な症状を訴えることがあり、その結果、実際の不安ではなく、消化器系の問題や他の生理学的な診断につながることがあります。

 

多くの専門家や保護者は、不安がこれらの症状に関与していることを認めていますが、子どもが自分の感情状態を不安と認識していないために、不安が身体症状の発現にどのように影響しているのかを判断することが難しく、またその逆もあります。症状の原因や、それが不安の経験とどのように結びついているのかに注意を払い、特定することが重要です。子どもが(症状の)引き金を認識できるように導くことが、その第一歩なのです。

 

専門家や親は、不安が長期的に影響を及ぼす可能性があることを知っておく必要があります。脳と生理機能は人それぞれですので、不安を管理するためのアプローチは個別に対応したものでなければなりません。全体論的な介入の有効性を裏付ける豊富な証拠があります。生理学的、心理学的、感情的な観点から、不安の始まりに気づくように教えることが、子どもを導く上で重要です。心と身体の相互作用には、これらのシステム間の相互作用を取り入れたアプローチが必要です。

 

また「ギフテッド」というラベルには成功への期待という大きな重みがあることを念頭に置き、期待のバランスをとるように子どもを導くことが最も重要です。失敗や過ち、不幸な出来事に対し、安心感を与え、共感を示すことが、成長へ向けたマインドセットとレジリエンス(折れない心)を育むために重要なのです。不安や恐れについて話し合い、子どもの話に耳を傾ける。そして、沈黙を破ることで、社会的孤立を減らし、不安に関連するスティグマを最小限に抑えることができます。

 

フレッド・ロジャースは次のように述べています。“私は、子どもたちが自分の感情に健全に対処する方法を見つけ、自分や他の誰も傷つけない方法を見つけるのを助けることで、世界をより安全でより良い場所にすることができると確信しています。”

 

認知行動療法は効果的な治療法であり、特に心と体のつながりを統合することに焦点を当てた場合に効果的です。セルフコンパッション(自分に対する思いやり)に焦点を当てたマインドフルネスの実践は、不安の症状を軽減し、自己と他者への理解を深めることにつながります。

神経系を落ち着かせるための呼吸法は、副交感神経を活性化させ、ストレス反応を抑えるポジティブな神経化学物質を放出することで効果を発揮します。私の親愛なる友人である故サム・クリステンセンが言っていたように、“不安とは想像力の中に抱かれた恐怖心のことである”と言えます。

 

最近の研究では、ポジティブな想像力が恐怖心を軽減することがわかってきました。子どもがポジティブな想像力を育むことができるように誘導することは、不安に対処するのに役立つかもしれません。

 

1日20分の定期的な運動、健康的な睡眠習慣、マインドフルな食習慣は、健康的な心や体を取り戻し、神経回路を繋げ直すことに役立ちます。私たちが子どもの心、身体、精神をサポートすると、子どもは不安から解き放たれ、成長していくことができるでしょう。